東京都渋谷公園通りギャラリー「アール・ブリュット2020特別展 満天の星に、創造の原石たちも輝く -カワル ガワル ヒロガル セカイ-」展にてオンラインワークショップ(2020.10)

10月3日19時から東京都渋谷公園通りギャラリーにて、オンラインの視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップを開催しました。全国からお申込みいただいた参加者7名(晴眼者4名、視覚障害者3名)とギャラリーに集まったスタッフがZOOMを通じて作品を鑑賞し、見えること見えないことを言葉にしながらワークショップを終えることができました。遠く離れた場所にいる人と言葉を介して鑑賞ワークショップをする機会は増えていきそうです。自分たちの備忘録として、そして皆さんとノウハウを共有するためにも記録を書き留めておきたいと思います。

■「言葉」と「視線」が揺れる場所  今回鑑賞したのは展覧会「アール・ブリュット2020特別展 満天の星に、創造の原石たちも輝く -カワル ガワル ヒロガル セカイ- 」の中から2点、澤田真一《無題》と渡邊義紘 《折り葉の動物たち》でした。どちらも立体作品です。オンラインの鑑賞を始めて改めて気づいたのは視線の動きがびっくりするほど早いということでした。対面のリアルなワークショップの時にはそれほど感じませんでしたが澤田真一のユーモラスな立体をめぐっては角や歯、腰のベルト、といった部分的なディテールにグッと近づく時間があったり、表情や仕草、立ち姿といった全体像を眺める時間があったり、そこから伺える印象の話になったり「見る」経験とは一つの作品をじーっと見ているわけではなく、近づいたり離れたり、角度を変えたり、視線を移動させています。渡邊義紘 《折り葉の動物たち》では一つ一つの動物(=枯葉)の葉脈が見えるほどに近づいて見る時もあれば群れ全体の配置を見ることもあり小さなケースの中で視線はダイナミックに動きます。

目まぐるしく動く視線に追いすがるようにして言葉も動きます。複数の人々が話すゴールの決まってない会話はコロコロと転がるようにどんどん予想外の道筋へと動いていきます。時に作品を飛び越えて外の風景にも話が及びます。ある参加者の方は「あれは渋谷パルコですよね、東京行きたいなあ」ギャラリーの外の風景を見て話します。そう、このギャラリーは名前の通り渋谷の公園通りに面しており借景のように作品と街が混ざり合った光景が醍醐味だと言えます。このギャラリーでしか見られない風景を遠く離れた人と共有するというオンラインならではの臨場感を生みながらワークショップは進みました。

■裏方スタッフの工夫ポイント こうした視線の動き、会話の動きに対応するためには配信の機材環境の準備や機材操作する裏方のスタッフの存在が欠かせないものでした。特に今回はオペレーターとカメラマンという二つの役割によって会話や視線のダイナミックな動きを損なわずにワークショップを運営することができました。裏方スタッフが工夫したポイントをキーワードごとに書き留めておきます。

・「オペレーター」2名。主にパソコン操作、カメラのスイッチングや画面共有などで資料を提供する1名と電話対応する人1名、合計2名。 ・「カメラマン」1名。スマホカメラでリアルタイムの展示室内を撮影する人。ワークショップの流れを常に聞きながら臨機応変に撮影する。 ・「緊急連絡先」接続が切れてしまった参加者がいた場合、パソコン以外に連絡が取れる電話やメールを設定して周知しておく。今回は携帯電話の番号を伝えた。聴覚障害者の方がいる場合、メールが良いかも。
・「早めの受付」プログラム開始より30分前にオンライン会議室を開けておき参加者の設定の確認をする。
・「資料の準備」一つの作品につき複数枚の画像を用意する。細部を写した寄りの画像、全体を写した引きの画像、角度を変えた画像など。話題に合わせて画面共有する。
・「スマホカメラ」用意した画像ではフォローしきれない場合に展示室内を動画カメラで撮影する。zoomのスポットライトという機能を使って撮影した映像をリアルタイムで共有することができる。
・「休憩」オンラインは会話や画面に集中していると何かと疲れるので適宜休憩をもうける。

上記にようにオンラインプログラムでは配信の機材や映像技術が介在することで対面のプログラムとは全く違う経験が生まれることを実感しました。それを実現するために裏方スタッフによるオンラインならではの工夫が必要だということも分かりました。何かを鑑賞して話すプログラムの中では「視線」「言葉」という流動的な要素をどのように扱うかがポイントになりそうです。工夫の余地も多数発見することができました。

主催:東京都、東京都渋谷公園通りギャラリー
企画協力:社会福祉法人愛成会
写真:石原新一郎