【コラム】美術館での会話について(2012.12)
【コラム】美術館での会話について(ナビゲーター 伊敷政英)
「視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ」では、
見える人と見えない人が一緒に美術作品を鑑賞するとき、
言葉を交わす、ということをとても大事にしています。
そこで、今回は美術館での会話について、つい最近の出来事と、
ナビゲーターとして僕(伊敷)が考えたことを書いてみようと思います。
先日ある美術館で、仲間4人で会話しながら作品を見ていると監視員の方に「ほかのお客様もいらっしゃいますので、もう少しお静かにしてください。」
と指摘をいただきました。仲間の一人が
「目が見えない人と一緒に見ていて、作品について話しているんです」
と僕たちの状況を説明しました。すると監視員の方は、
「でもほかのお客様のご迷惑にもなりますので」
とおっしゃいます。
「どのくらいの声だったらいいですか?」
と仲間が聴くと、
「このくらいの声で…」
とヒソヒソ声で小さくて後半はよく聞き取れませんでした。
これまでにも「お静かに」と注意されることはありました。
その時は、確かに僕たちがうるさかったのかもしれません。
でも今回は、特に笑っていたわけでもなく、普通の声で話していました。(もしかしたら他の来館者が監視員の方に要望を伝えたのかもしれません…)
その後も長い時間その美術館にいましたが、
「また注意されるんじゃないか」
「今の自分たちの声は大きすぎないかな」
と気になって、しばらく作品に集中できませんでした。
(でも自分達の会話によって他の人は集中できなかったのかもしれません)
目が見えない人が美術作品を鑑賞するとき、作品を説明してもらったり、感じたことを共有するのに言葉は欠かせないと思っています。「視覚障害者とつくるワークショップ」でやっているように言葉を通じて鑑賞するのはとても楽しいものです。
でも実際のところ「静かに作品を見たい」という人もいる。
あるいは作品によって「これは友達と話しながら見たい」とか
「これはじっくり味わいたい」というのもあると思います。
僕自身、友達と見に行っていても一人でじーっと見る時間もあります。(僕は弱視で、少しですが視力があるので、作品を見ることもできます)
このことについて皆さんはどう考えているんだろう、と思って検索してみたら、こんなTogetterを見つけました。
博物館は静寂でないといけない? – Togetter
このTogetterは子どもと一緒の美術鑑賞をきっかけにしたものですが、美術館や博物館は静かでなければいけないのか、という議論のまとめです。
どちらがいいとか悪いとかではなく、静かに見たい人やじっくり味わいたい作品と、どう折り合いをつけるか。妥協点を見出すか。様々なニーズとどう共存する方法を見つけるか。
これからも美術館や博物館には頻繁に行くと思います。
しばらくの間は周りのお客さんの様子を見ながら、声の大きさや言葉の量を調整して作品を鑑賞するとともに、言葉を介した鑑賞スタイルを提案していきたいと考えています。
(2012.12 ナビゲーター 伊敷政英)