国立新美術館 「第47回東京五美術大学連合卒業・修了制作展」展にて言葉で巡る五美大展ツアーを開催 (2023.3.1)

作品につけられた紙粘土の点字を、見えないナビゲーターが手のひらで読んでいる様子

国立新美術館で開催された第47回東京五美術大学連合卒業・修了制作展にて「言葉で巡る五美大展ツアー」を行いました。当日は6人の参加者とともに、女子美術大学の卒業展示作品より2作品を鑑賞しました。

この企画は、女子美術大学の学生さんが当団体に声をかけて下さったことから始まりました。企画者の学生さんは、ご自身が視覚に障害を持った過去の経験を表現した作品を五美大展に出展されており、目の見える人にも見えない人にも作品を楽しんでほしいとの思いから団体にアプローチしてくれました。私たちとしては長年続いている学生のための五美大展に目の見えない人(特に学生さん)が楽しむ機会が増えると良いと思い、企画に賛同して一緒に試行錯誤しつつ話を進めました。

最初に鑑賞した作品は《Window》という絵画作品です。2枚がL字型に展示されたの縦長のキャンバスの一方にはいくつかに仕切られた窓枠の外に樹が、もう一方にはモノクロで同じ樹が反転して描かれています。窓の中央4つの枠にはそれぞれ異なる四季の風景が描かれており、四季や白黒という明確な対称性に、はじめはシンプルな絵だと思ったのですが、見ていくうちに何やら思ったより曖昧で複雑なことに気づきました。これは複数人で話しながら見ることの醍醐味で、わかったように思いやすい「わかりやすそうなもの」に、あれ?っと思える面白さがありました。

四季という概念だけではなく、人生の時間の流れや、朝から夜にかけての時間軸の話など、さまざまな解釈や、これは病室から眺めている景色なのでは?といった、描いている側に立った発想もありました。L字に展示されていることによる「これは立体作品なのでは?」という空間の話や、モノクロの絵は斜めに落ちているから影だと思い込んでいたけれど、良く見ると灰色や黒の中にも立体的にグラデーションが表現されていて、「これは影なのか?」という問いが生まれたのも興味深い観察でした。

2作品目の《ブレスレット大切にするよ!》は、3つのセクションが縦に連なった絵画で、それぞれが違った趣向と手法で描かれていますが、全体を通して人の輪郭でつながっています。触ることができる作品というのが特徴で、作品のキャプションには普段「お手を触れないでください」のところが、触れることを促すマークになっていました。一番下のキャンバスには白玉団子くらいの大きさの紙粘土で点字が張り付けられています。点字というのは指の腹で触れて読むので、手のひらで触っても言われなければ点字と分からないそうです。しかし、一旦読み方が分かると、あ、読めた!と見えない方が点字を一字一字拾っていく感じが、見ても触っても点字はわからない私には不思議な感覚で、「伝わる」ということや、その人がわかる「言語」ということに思いを巡らせました。

描かれている人は女性なのか男性なのか、タイトルの《ブレスレット大切にするよ!》というのはこの画中の人が言っているのかもしくは言われたのか、全体として淡く細い線で描かれたやさしい雰囲気の作品に、参加者の解釈もゆらぎながらストーリーの背景にまで話が及びました。今回は作者がいる場だったので、制作の意図も伺ったりしました。

ワークショップにて作品に触れての鑑賞が出来たことで、気づきも得られました。触れることでわかることは言葉で伝えづらく、例えばそこにいる6人と同時に共有するのが難しい一方で、見るより触るときの方がリアクションが多かったり、触りながらつぶやいたことに近くの人が反応して同じ経験をシェアしようとしているのが興味深かったです。

五美大展は美術大学の学生が主体的に運営する学生による学生のための展覧会です。しかしながらそれは健常者の学生をメインの対象としており、視覚障害をはじめとしたさまざまな障害当事者の学生が関わる機会は、運営側にも鑑賞者の側にも多くはありません。今回、学生さん自身の発案によって見える人と見えない人が交流する機会を作れたことは良い経験でした。今後もいろいろな方と関わりながら、活動の幅を広げつつ、学んだり、気づいたり、おもしろがれたら良いなと思いました。(スタッフ森尾)

 

【鑑賞作品】

《Window》鄭城州 2023年 油、キャンバス

《ブレスレット大切にするよ!》木本千聡  2023年  油絵具、紙、粘土、布

 

主催:女子美術大学学生有志、視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ