「みる」経験のインタビュー 大沢郁恵さん
このインタビューは、目の見える人、見えない人、見えにくい人、さまざまな立場の人に「みる」経験をインタビューするシリーズです。
美術を鑑賞する方法には、目で見るだけではなく、目の見える人と見えない人が一緒に言葉を交わしながら「みる」方法や、触れながら「みる」方法もあります。
それぞれの経験は、記憶や経験、他者の言葉など、環境との相互作用によって変化していきます。その変化のプロセスに目を向けて、さまざまな「みる」経験をインタビューとして記録します。
言葉はなんだかハンコっぽい。中途視覚障害者の大沢さんは、言葉をたよりに想像を膨らませるご自身の美術の見方をスタンプカードにたとえます。同じ作品なのにまったく違う印象が出てくることに混乱しながらも、「困惑とワクワクはセット」という大沢さん。イメージをどんどん上書きしていく”みる経験”のプロセスはとても創造的です。
プロフィール
大沢郁恵さん
神奈川県在住、事務職の会社員。現在は、強度の弱視。
17歳の時網膜色素変性症と診断され、徐々に視野狭窄・視力低下が進み、2014年盲導犬と歩きだす。もともとインドア派だったが、盲導犬との生活でいろいろ出歩くようになり、趣味は盲導犬との思い出作りと旅行。そのお出かけの中でワークショップに何度か参加し、毎回新しい発見を得られる体験にとても感動。
聞き手
林建太
視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップスタッフ。1973年東京生まれ。鑑賞ワークショップでは主にナビゲータを務めている。美術や映画が好きで、そのことを語る会話の不思議さにも興味がある。
山里蓮
広島大学総合科学部4年生。2001年生まれ。卒業研究として、視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップでの鑑賞の経験について研究をしている。最近の趣味は新作グミの味比べをすること。
動き出したイメージ
林 大沢さんは普段、美術館には行かれるんですか。
大沢 いや、本当に行った記憶があんまりないぐらいですね。
林 あ、そうなんですね。
大沢 行きたいなと思う時はあるんですけど。ペットを飼っていた時、犬を連れて旅行に行って、雨降ると犬オッケーな美術館があったので、雨宿兼美術館で何度か行ったことがあるというくらい。1年に1回行くか行かないかぐらいですね。
林 昔から、美術が好きだったというわけではないんですね。
大沢 そうですね。でも、ちょうど写真美術館のワークショップに参加する前に、ニューヨークに旅行に行ってて、その時メトロポリタン美術館にも行きたかったんですね。
林 はい。
大沢 でも視覚障害のお友達が、やっぱり見えないからあまり楽しくないよって言ったから行かなかったんです。でも、せっかくだったから、見たかったなというのがあって。なにか行く方法はないかなって思ったんです。それでこのワークショップを知って、見えない人がどうやって見るんだろうと思って参加したのが、最初だと思います。
林 なるほど、そういうタイミングだったんですね。じゃあ、その頃は見えなくなり始めの時期ですか。
大沢 そうですね。徐々に進行していく病気で、視野がどんどん狭くなっていって。普通の人は180度ぐらい見えるのが、10度とか5度とかになって。 20度から10度になるのはあまり急激に感じないんですけど、5度が1度になるとすごく変わるんですね。ちょっとずつ進行して、その時はもう残りが短くなって見づらくなったぐらいでした。
林 なるほど。この活動は何で見つけてくださったんですか。
大沢 Facebookだったと思います。
林 最初は、どんな感じか確かめに行こうという感じでしたか。
大沢 そう。見えない友達と一緒にニューヨークに行った時には、その子はおもしろくなかったと言っていたけど、視覚障害者がそんなことやってるんだって思いましたね。
林 なるほど。ご参加いただいた時の感触って、覚えておられますか。
大沢 そうですね。本当に何も知らずに最初参加させてもらったんで。美術館って、あまり人と一緒に見るというよりは、今までは1人で一通りぐるっと見て終わるような見方だったんです。それを、みんなで移動して、一緒に話しながら見るという見方があるんだなって思いましたね。
林 そうか。みんなでその作品の前に集まって話すのは、言われてみれば割と特殊な見方 ですよね。なんだか、もはや自分としては当たり前で忘れてるけど。
大沢 そうですよね。今まで私がやっていた美術館の見方と、だいぶ違う見方ですよね。
林 その時は、楽しいとか難しいとか何かしらの感想は持てましたか。
大沢 そうですね。最初は、自分がどう関わってどう人の話を聞くのが正解なのかなと思ってたような気がします。
林 そうですか。
大沢 でも、あんまり深く考えない方がいいんだなって、徐々に思って。それで、自由に。
林 はい。
大沢 見えないから、人の話を聞いて言葉を頼りに想像するんですよね。ここには人がいて、この人はどんな表情しているんですか?と質問すると、こんな表情ですと返ってきて。じゃあ表情はこれかなって、頭の中にポンポンポンって絵が浮かんで。
林 はい。
大沢 何回かワークショップに参加しているうちに、その頭の中にあったイメージが、 写真だから動かないはずなのに、こういう背景でこんな女の子がいてって、最後はこう動き出したんですね。
林 へー。
大沢 止まった写真じゃなくて、 私の周り360度が写真の中に入ったような。こういう勝手に動き出す感じが、すごく美術を楽しんでるという気がしました。
スタンプが貯まっていく感じ
林 なるほど。今のお話すごくおもしろいなと思ったんですけど、ポイントは勝手に動き出すっていうことと、写真の中に360度入り込むっていうことですよね。そういう感覚って、毎回起きることなんですか。
大沢 うーん。1回行ったら、1回は起きますね。
林 なるほど。
大沢 たとえば映画見て、説明してもらうじゃないですか。
林 はい。
大沢 勝手に映画監督になって、この俳優さんがこう言って、このアングルで、とか考えながら映画を見るんですけど、それと似てるんだろうな。言葉を頼りに頭の中で、自分で好きなように想像するというのが、多分映画もそうだし美術もそうで、似ているのかなと思いましたね。
林 なるほど。とすると、カメラをどこかに置く感じなんですね。
大沢 そうですね。最初カメラを置いて、絵の場合はその説明の通りにポンポンってイメージが増えていって。途中から乗ってくると、言われていないものも増やしていって、勝手に動き出すみたいな、そんな感じです。
林 おもしろいですね。言われたことを配置していくけど、 自分でも付け加えていくし、それが進むと勝手に動き出すって。
大沢 想像がどんどん膨らんで、なんか楽しくなっちゃう。
林 でも、その聞いたものを置いていく第1段階はないといけないですよね。 第一段階を経て、次の段階で自分でつくっていく感じなんですか。
大沢 そうです。だから、置く時にいまいちピンと来ないと、それってどんな感じですか?ってさらに聞くと、より置きやすくなる。
林 あーなるほど、おもしろい。僕、大沢さんに聞いたことで、なぜかすごくやけに覚えてることがあって。
大沢 はい。
林 前にさらっとおっしゃってたんですけど、美術を鑑賞している時にいろいろなものが増えていくその感じが、スタンプカードのポイントが溜まっていくみたいで、ポンポンポンって埋まっていく感じが楽しい、みたいなことを仰ってたんです。
大沢 あー、まさにそんな感じですね。
林 すごくユニークで、なるほどなと思ったので、覚えてたんです。なぜそれに例えたのか、どんなところがスタンプカードっぽいのかなと思って。
大沢 言葉が、なんだかハンコっぽいんですよね。例えば花が見えますって聞くと、花がポンってここに押されて。なんか、パッと出るんですよ。じわーっというよりか。
林 瞬間的に決まった形のものが、ポンって現れる感じ。
大沢 そう。素材とかがポンって。
林 なるほどね。
同じ絵なのにこんなにも違う
林 今話していただいたのは多分、さっきの第1段階の話ですよね。
大沢 そう。第1段階でそういうのがおもしろいなと思って、第2段階は、キース・ヘリングの時※1に違うおもしろさを感じたんですね。
林 はい。
大沢 キース・ヘリングの絵ってあまり具体的なものがないじゃないですか。どっちかっていうと抽象的な。
林 そうですね。
大沢 だから、同じ絵なのに人によって言うことが全然違ったんですよ、そのワークショップの時。ある人は楽しそうって言ったり、他の人は怖いって言ったり。悲しそうって言うひともいたり。同じ絵なのにこんなにも違うというのが、おもしろいと思ったんですね。
林 はい。
大沢 人を通して聞くということは、その人の印象が入ってるんだなと思ったんですよね。この人はこう思うんだというのを知るのが、すごく楽しくなってしまったんです。
林 へー。
大沢 同じ絵なのにこんなに違うということは、その人は悲しい思いを今してるのかなとか、この人は楽しいって言ってるから今幸せなのかなとか。そういうことを鑑賞を通して見れるって、すごく贅沢だなと思ったんです。私は、自分ひとりじゃなくて、ある人の目を通したものをさらに見れるというのが。
林 なるほど。
大沢 でも最初、すごく混乱したんですよ。なんで同じ絵なのにこんなに違うんだって。
林 そうですよね。
大沢 怖いって聞いたら、言われるままに怖い絵だからもっと暗い感じかなとかスタンプ押して。でも次楽しそうって聞いて、え、楽しい?と思って、じゃあ違うのかなって上書きして。最初は混乱してたんですけど、途中で “そうか。同じ絵だけど見方が違うんだな“って気づいた時に、急に見る方向が絵よりも人に行っちゃったんですね。
林 その怖いとか楽しいとかいろんな印象が出てきた時に、スタンプカードはどうなっちゃうんですか。
大沢 だから、もう大混乱ですよ最初。
キース・へリング展でのワークショップ風景
林 軌道修正が必要ということですか。
大沢 そうそう。イメージで 勝手に花の色とか大きさとか位置とかを、教えてもらいながらスタンプ押してるつもりだけど、違う情報をもらうと全然違ったと思って直すことはよくありますね。
林 自分で押し直す感じですか。
大沢 そうですね・・。ほんとに、なにかマジックみたいに、煙がポンって出て入れ替わる感じ。
林 あ、消すのも割と簡単に消せるんだ(笑)。
大沢 そうですね、結構簡単に(笑)。
林 へーなるほど。そうか。作品を見ていて、作品の中に入ることもあるし、作品の手前の参加者がいる空間がおもしろいってなることもある。
大沢 そうですね。
山里 没入するような楽しみ方とか、キース・ヘリングの楽しみ方とか、作品ごとに楽しみ方の種類がある感じなんですか?例えば鑑賞中に、あ、今回はキース・ヘリングの楽しみ方だなとか。
大沢 うーん、どっちかというと、スタンプを貯めてくうちに、こっちの方向に持っていったら楽しいかもと気づいたら、そっちに変えてく感じですね。
林 そうなんだ。
大沢 あの、マリンサイエンスミュージアム※2のワ―クショップあったじゃないですか。
林 はい。学芸員さんもついてくれて。
大沢 そうそう。あれは私大興奮したんですよ。 なんて言うのかな、みんなでつくり上げた感じがしたんですね。
林 へー。
大沢 クジラの骨格を見たんですよね。
林 はい。大きなクジラの骨格標本を見ましたね。
大沢 あの時もう完全に骨のクジラが、私は海の中でざっぱざっぱ泳いでたんですよ(笑)。
林 はい(笑)。
大沢 それがもう大迫力で。頭の中の勝手な想像なんですけど、 骨があんなに気持ちよく泳ぐかねとか思いながら。それがもうすごい興奮しちゃって。他の人たちといろんなことを言ってるうちに、一緒に船に乗った気分になってたんです(笑)。
林 そうなんですね(笑)
東京海洋大学マリンサイエンスミュージアムで行ったワークショップの様子
大沢 だから、いろんなパターンが、これからもどんどん増えてくのかなという気はしますね。
山里 なんだか、大沢さんはどの鑑賞方法もストーリーを楽しんでいるような感じがします。
大沢 そうですね。想像力を膨らますことを楽しんでいるのかもしれないですね。
林 よりどころが、ストーリーなのかもしれない。
大沢 うんうん。そうですね。
林 映画はみるんですか?
大沢 うん、映画は好きですね。
林 映画館に行ったりもしますか。
大沢 映画館に行ったりもしますね。音声ガイドをつけてくれる映画ツアーがあるんで。でも、私の気になる映画にはね、音声ガイドがつきにくいんです。 王道からずれてる。
林 最近だとしたら、例えばどんな映画をみたかったんですか。
大沢 最近だと、ミュータントタートルズが好きでして。
林 え。あれ、音声ガイドついてないですか。
大沢 洋画ね、ほとんどついてないんですよね。
林 そうか、残念すぎますね。アメコミとかが好きなんですか。
大沢 いや、タートルズだけが好き。
林 アニメを見てたとか。
大沢 そうです。子供の頃見てたんです。
林 はいはい、12チャンネルでやってたやつかなあ。
大沢 そうですそうです。
みんなでつくり上げてる感
山里 その頭の中でつくり上げたものって、他の人に見せたいなっていう気持ちはあるんですか。
大沢 あ、思ったことないですね。
林 そうなんだ。
大沢 もう超満足。うむうむって思うぐらい。
林 スタンプカードは、そのクジラの時も持参してたんですか。
大沢 そうですね・・・。でも、あのクジラはあまりにも大きすぎて。スタンプというよりかは、もうそのものって感じ。
林 そうか、スタンプカードじゃないパターンもあるのか。おもしろいですね、スタンプカード以外の何かもあるっていうのは。
大沢 うん、確かにそうですね。
林 美術館の音声ガイドって利用されることはありますか。
大沢 はい、ありますね。
林 音声ガイドとこのワークショップみたいに複数の人が言葉を交わすのと、大きな違いってなんですか。
大沢 なんていうのかな・・・返答をもらえるところ。
林 あー、なるほど。
大沢 今どういう意味だったんだろうなというのに対して、聞くと返答がもらえるんで。じゃあこういうことかという修正ができたり。すごくありがたいなって思いますね。
林 発言に対してありがたい返答が返ってくることもあれば、思いがけない反応で驚いたりもありますよね。それを含めて楽しんでる感じがするんですよね。そのそれぞれの返答がおもしろいって、集まっているみたいな感じ。
大沢 なんかわかる気がする。みんなでつくり上げてる感はありますね。
林 そうそう。さっきもおっしゃったじゃないですか、クジラの時。でもあれ、つくり上げようという設計図があって、そこにみんなで向かっている感じではないんですよね。
大沢 うん。そうですね。
林 なんかこう、何をつくろうともしていないけど、振り返ってみたら出来上がってたみたいな。
大沢 そう。だからワークショップのおもしろいなと思う瞬間って、1番最初に“ではこの絵をみます”ってはじまった時に、一瞬みなさん“・・・さて?” って雰囲気が流れるんですよ(笑)。
林 ありますよね(笑)。結構無言になることあります。
大沢 そうそう(笑)。
林 ああいった瞬間はどう受け止めてるんですか。
大沢 いや、1番最初の時は、え、これ大丈夫かな・・って(笑)。
林 そうですよね(笑)。でも僕は、あの、さて?ていう瞬間がなんかこう、好きというか。それこそ簡単に言葉にできないものに立ち会っている感じがして、すごい楽しいなと思って。でも、ずっと戸惑われても、困りますよね。
大沢 まあ、それはさすがに。ナビゲーターの方が何人かいらっしゃるので、その方たちがうまく誘導していく感じがします。
林 でも、ルールもそんなにないから、ここの話をしようって持っていけるのが、こういう場の良さかなという気もするんですよね。さっきの返答と一緒で、自分がわからないところに焦点を持っていけるというか。
大沢 そうですね。本当にそれぞれが違う楽しみ方をしているんだろうなというところが、私は素敵だなって思いますね。
林 他の人が違う楽しみ方してるって、なにで感じますか。お話とかからですか。
大沢 そうですね・・最後の振り返りとか聞くと、そんなこと思ってたんだって思うことがいっぱいあるんで。
林 うんうん。
大沢 私はこの楽しみ方をしてるけど、きっと見える人はもちろん違うし、見えなくても違う人は違う楽しみ方をしてるし。
林 ちょっとずつズレてることが、すごい大事だなとも思うんですよね。
大沢 うん。そうそう。それが心地いいんですよね。自由で。
林 自由じゃない時もありますか。
大沢 うーん、そうですね。このワークショップ行った後に、音声ガイドあるならいけるかもって美術館に行ったんですよ。行った結果、まあ1人でも見れた。でも音声ガイドは、あくまで音声ガイドなんで。印象としてすごくぼんやりとしたものしか残らなかったんです、その時。やっぱり結局誰かと一緒にいて、説明してもらいながらの対話がないと、自由じゃないというよりかは、全然イメージがつかなかったですね。
林 そこで言う対話で、大事なポイントってなんですかね。人数はいっぱいいた方がいいんですか。
大沢 うーん、多分いっぱいいた方がより楽しいと思います。
林 そうですか。
ポンって押したハンコを上書きする
大沢 横浜美術館の現代アートのトリエンナーレで、生まれて初めての現代美術館行って。噂で聞いたことは、現代美術難しいと。やっぱり難解な美術がいっぱいあったんですけど、その時は1対1でついてもらったんですね。
林 うんうん。
大沢 でもやっぱり説明だけじゃ難しくて。話してたらそのガイドの方が “こう説明していても、私もよくわからない“って言って。あ、 見えてもわからないんだなって。
林 うん。
大沢 そういうのも含めて、もう自由に楽しめばいいのかと気づいたんですね。会話があったからようやく見た感じがするというのは、その時も思いましたね。
林 1対1でただ説明されるだけだと、見た感じにはならなかったということ?
大沢 いや、見た感じにはもちろんなるんですけど。対話がある方が、例えば、見える人も決してわかないんだなとか分かるし、歩いてる時に“さっきこんなことがあってね”っていうのも聞きながらだと、楽しいなと思ったんです。それに人数が多いと、いろんな見方があるじゃないですか。
林 はいはい。
大沢 やっぱりそれが自由で、ワクワクして。人が10人ぐらいで集まってやるといろいろな見方があって、よりワクワクする感じがあるのかなとは思いますね。
林 これ、なんでなんですかね。
大沢 そうですね・・。やっぱり、私の頭の中でポンって押したハンコが、他の誰かの言葉で打ち消されて、最初のハンコを上書きしていくのが楽しいのかもしれないです。
林 あー、上書き自体が。
大沢 どんどんスクラップアンドビルドしていくような感覚が楽しい。
林 そうですね。だって1対1ではそれは起きないですもんね。相手のハンコを打ち消す勢力がない。
大沢 そうですね。言われたままにこうかなって想像して、それで思っても見ない方から言葉が来ると、じゃあこっちなのかなっていう、困惑と、感動と・・・
林 ワクワクと。みたいな。
大沢 そうそう。
林 困惑とか戸惑うことって、なんだかキーポイントになっている気がしました。
大沢 意外と困惑とワクワク、私はセットですね。今話して思ったのは、困惑するからワクワクするのかも。
林 困惑というのは、まだよくわからない状態ですかね。
大沢 うーん、思ってたのと違ったという困惑かもしれない。
林 ああー。じゃあ、自分が思ってたのは打ち消される。
大沢 うん。
林 それが大事なんですか。
大沢 うーん、よりつくり上げてる感がある。
林 つくり上げてる感というのは、自分でつくり上げてる感じですか。
大沢 そうですね。結局できてるのは自分の中だけなんですけど。それを、いろんな人の手を借りて、目を借りて、言葉を借りて、より自分の中で厚みのあるものにつくり上げていくような感じがあって。
林 そうか、つくり上げるプロセスには打ち消すということがある。やっぱり上書きしていくというプロセスが必要なんですか。
大沢 うん。今話していて思ったのは、それだから厚みが出てくる感じ。
林 なるほど。そうね、打ち消すっていうのも1人じゃそもそも難しいし。
大沢 これが正解と思っちゃってるんで、その時は。それを 違う目で違うって言ってもらえたからこそ、より正解かもって思えるものに近づける。
林 それには他者の言葉が大事ですか。
大沢 そうですね。自分ではもう1つ押したスタンプは、言われない限りは消えないんで。聞いた言葉でまた消して塗り替えて消して塗り替えて、いろんな色を塗っていってという作業が楽しいんですね。
林 そうか、スタンプは人の言葉で簡単に打ち消せるけど、自分では消せないってことか。
大沢 うん、多分。
林 なんかわかってきたけど、だからスタンプという例えをしているんですかね?なんていうのかな、自分でマス目に書き込むのではなくて、 スタンプカードってお店の人が押すじゃないですか。人が押すのは自分の書いた文字とは違って、人から押されるもの。
大沢 あー、なるほどね。
林 スタンプって道具は、自分の外側にあるものだから。
大沢 うん。確かに。
林 最初に大沢さんが何気なく言った例えって、ぴったりフィットしてますね、大沢さんのみる経験に。
大沢 確かにそうですね。本当だ。だから、自分の手で書いたというよりかは、やっぱり誰かの目を通したスタンプを押してる感じがしますね。
林 そういうスタンプの外部性っていうのは、自分の体の外側にあるものというところが、おもしろい。
大沢 うんうん、確かに。
林 世代的には、僕はラジオ体操のハンコとか(笑)の物質的な感じだんだん減ってるじゃないですか、今。アプリとかそういう意味でもしっくりくるなとか思って。
大沢 そうそう。なんかあのスタンプわくわくしますね(笑)。
注1)2022年12月18日に中村キース・へリング美術館で対面で開催した「目の見える人と見えない人が楽しむ美術鑑賞ワークショップ」『キース・へリングの作品を「鑑賞」してみましょう』
注2)2023年2月4日に慶應義塾大学アート・センター主催で、東京海洋大学マリンサイエンスミュージアムで行った「目の見える人と見えない人のまっすぐ&ぶらぶら対話ツアー」
(編集:森尾さゆり)