【リフレクション】場所に根ざすことについて〜東京都写真美術館での5年目とこれから〜(2021.8.22)

2017年度から東京都写真美術館で実施してきた視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップの活動は5年目に入りました。約5年の間にはコロナ禍など大きな変化もありましたが、美術館の皆さんと試行錯誤してオンラインでの方法を取り入れながら継続して鑑賞ワークショップ(ボランティア研修も含め)を24回実施しました。参加者は約232名となりました。

◼︎場所に根ざすということ
このプログラムは美術館の外部団体である「視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ」(以下「とつくるWS」)が委託を受け企画運営を担うプログラムなのですが、24回のプログラム運営には大勢の美術館スタッフにも関わっていただいています。学芸員はもちろん、インターンさんやアルバイトスタッフも積極的にプログラムに立ち会っていただきました。広報や総務、展示室の看視スタッフの皆さんにも常に見守って頂くことで約5年間、大きな問題なく安心で安全な対話の場を保つことができました。とつくるWSスタッフ、美術館スタッフそして参加者、という美術館に集う人たちによってこの場が作られてきました。このプログラムの在り方は、特定のスタッフだけが持つ属人的なものではなく、美術館という場所に根ざしたと言えるのではないかと思います。この出来事は私たち「とつくるWS」の10年の活動の中でもとても大きな成果だと思っています。

◼︎1回と複数回の違い
例えば、美術館などで1年に1回打ち上げるイベントには1回限りの機会に力を集中することで一期一会の一体感が生まれる良さもあると思います。しかし一回限りではなく同じ場所で継続して行うことにも大事な意味があると思います。写真美術館では複数の展覧会を対象として1年間に6回「視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ」を実施してきました。複数回実施することは参加者にとって選択肢が増えますし、様々な展覧会を通して美術館のいろんな顔を知ることができます。スタッフにとっても回数が増えることで特定の慣れたスタッフだけが関わるのではなく初めて関わる経験の浅いスタッフやインターンさんやアルバイトスタッフにも関わってもらいやすくなりフレキシブルな運営体制が作られます。 そして何より写真を観る経験とは作品によって、観る人によって異なるという、パターン化できない複数の鑑賞経験が生まれます。実施回数が増えるほどに共通の普遍性に目が行きがちですがバラバラな個別の経験にも目を向けることができます。このプログラムは必ずしも普遍的ではない個人の経験について語る場でもありたいと思っています。

◼︎5年目とこれから
そして5年目からは、東京都写真美術館に根ざしたプログラムを育てていくという思いを込めて、美術館の皆さんと相談して新しいプログラム名を考えました。新しい名前は 「インクルーシブ鑑賞ワークショップ :見るときどき見えない、のち話す、しだいに見える」 です。 みんなで写真を見ていると言葉と見る経験が混ざり合って、まるでお天気のようにどんどん見え方が変化していく様子を表してみました。 これからもよろしくお願いします。(スタッフ林)