東京都現代美術館MOTコレクション「コレクション・オンゴーイング」展にてワークショップ(2016.4)

2016年4月に東京都現代美術館MOTコレクション「コレクション・オンゴーイング」展で視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップを開催しました。18名の方々と一緒にポップアート、紙の作品などを鑑賞しました。その中での印象的なエピソードを紹介します。

このワークショップではしばしば、その場にいる参加者だけの共通言語(のようなもの)が発見されることがあります。

この日も、李禹煥の《ドローイング》という作品を見ながら参加者が「見えていること」「見えていないこと」を言葉にしていきました。紙に鉛筆で複数の曲がりくねった縦線が描かれている作品でしたが、具体的な人や物を描いている作品ではありません。シンプルな線が醸し出す表情を言葉で表すのはなかなか難しいことでした。

目の見えない参加者のSさんは 「説明してくれる方が複数いるとその方の主観がはいるのでイメージが膨らまない」(アンケートより)と語ります。 目の見える参加者I さんはこう語ります。 「抽象的な作品を言葉で表現することの難しいです。視覚障害者の方が「抽象表現が好き」といわれた方がいたが、その場合の「好き」というのはどのようなものを想像しているのか、それから翻って自分は何を判断して好みを判断しているのだろうかと考えました。答えは分からないままですが、考えてみると面白いです。」(アンケートより)

参加者はそれぞれに言葉にする難しさ、面白さを感じながら、 線の曲がり方のリズム、色の濃さが持つ強弱、連想される音、擬音など、作品を様々な言葉に置き換えます。

そしてSさんから「どしゃぶりみたいな感じ?」というイメージが語られ、参加者が「そんな感じです!」とみんなが同意する場面がありました。 「どしゃぶり」という言葉から受ける印象は人それぞれ千差万別で、参加者は完全に同じイメージを共有していたわけではありません。しかし一定の時間を過ごすプロセスを共有したからこそ、小さな輪の中で確かな共感が生まれていたように思います。 それは参加者どうしの異なる経験を共有するために「どしゃぶり」という共通言語が生まれた瞬間なのだと思います。(林)

【鑑賞した作品】
《ボブホフマンに話しかけるクリストファ・イシャウッド,1983年3月14日,サンタ・モニカ》デイヴィッド・ホックニー
《一つのこと》関根直子
《ドローイング》李禹煥
《ばら色の前方 後方》辰野登恵子
《Notice – Forest: Madison Avenue》照屋勇賢
《それは変化しつづける それはあらゆるものと関係を結ぶ それは永遠に続く》宮島達男

主催:視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ