原美術館「ソフィ カルー最後のとき/最初のとき」展にてワークショップ(2013.05)

2013年5月25日、6月12日の2回にわたり原美術館「ソフィ カルー最後のとき/最初のとき」にて視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップを開催しました。20名の参加者(うちナビゲーターを含む5名の視覚障害者)が2チームに分かれて展覧会を鑑賞しました。

1階の「海をみる」というシリーズではイスタンブール内陸部に住む人々が初めて海をみる瞬間を捉えた映像インスタレーション。2階の「最後にみたもの」というシリーズでは、人生の途中で視力を失った人々が最後に見たイメージについて語るストーリー。作品を前にして参加者自身(見える見えないに関係なく)が何を「みて」いるのか、何を感じているかを語り合うワークショップとなりました。

コンセプチュアルでありながら、キャプションや解説は展示室に存在しないシンプルな展示。多様な人がグループになりそれぞれの読み方を、語り合いながら共有するスタイルはこの展覧会に合っていたように思います。 印象的だったのは「最後にみたもの」というシリーズを鑑賞した人の反応の変化でした。始めは展示されている失明にまつわるストーリーに感情移入しながらも、ふとした瞬間から参加者の中に「これは真実なのか?」という作家への疑いが湧いてきました。

視覚障害者の参加者のからも「劇的なストーリーすぎて共感できない」(「盲人とリボルバー」等)、メッセージがない「誰もいないソファーのイメージの方が共感できる」(「盲人とソファ」)という話になり、自然と話題は「ある失明者のストーリー」から、参加者それぞれにとっての「みること」「物語の嘘」「記憶(の曖昧さ)」「真実と虚構」という話に及びました。

ある晴眼者の方が「目の前にありながら見えていなかったことが、他者の言葉を聞くことで、どんどん現れて、見えてくるという感触」を得ることが出来たのは、立場も背景も違う参加者の視点を持ち寄ることで、少しずつ作品の多面性に迫ったからかもしれません。

鑑賞ワークショップ終了後も話は尽きず、参加者自身の知識や経験を交えた会話がとても活発に交わされました。疑問や謎も含めて、ある余韻が参加者の中に残ったのは展覧会の奥深い魅力はもとより、見える人・見えない人・聞こえない人が同じ時間を共有し、さらにその属性を超えて一つの作品を巡り対話することができたからではないかと思います。

 

【鑑賞作品】

「海をみる」ソフィ カル
「最後にみたもの」ソフィ カル

 

主催:視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ