群馬県立近代美術館 ボランティア研修鑑賞会(2013.11)

11月2日午前中、群馬県立近代美術館でのワークショップ開催に先がけて美術館の職員、ボランティアのみなさんと一緒に鑑賞会を行いました。 結成から20周年をむかえる群馬近美のボランティアの皆さんは 普段からギャラリートークやワークショップ等で来館者と美術館を結ぶ役割を担っているそうです。

多様な来館者の中でも視覚障害の方に美術館を楽しんでもらうにはどうすれば良いの? そんなことを考えるきっかけになればと、この鑑賞会を行うことにしました。 ボランティアの羽鳥さんが鑑賞会の感想を書いてくださいました。 よろしければお読みください。

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11月2日、ボランティアを対象とした「視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ」に参加した。 多くの人はどんな方法で?と思われるだろう。当日の様子を簡単に紹介したい。 私のグループは視覚障害者であるKさん、美術館職員、ボランティアで総勢7名。

自己紹介の後、展示室へ。最初の作品の前に並ぶ。何から始めたら良いのか、一瞬の戸惑いとためらいの後、思いつくままに、そしてできるだけ分かりやすく、描かれている物、形、色、印象などをKさんに伝える。作品の様子が伝わったところで更に一歩進め、各自感じたこと、想像したことを思いおもいの言葉で語り、伝え合う。その間、Kさんは疑問や質問を投げかけ、私たちの発言を促し、それはこういうことですか、と確認する。

そうしながら作品のイメージをふくらませている様子だ。さらに声のトーンや息づかいから伝わるものも情報として感じ取っているようだった。こうして「モデル午睡」では女性の年齢で盛り上がり、「水」では色の持つ力に感動し、「小さなキッチン」では住人はどんなどんな人かテーブルの食材から推理、等々、真剣かつ楽しい時間を共有できた。

鑑賞を終え、自分でも意外だったのは「聴いてもらえてうれしかった」と素直に喜べる、そんな気持ちになったことだ。いつもはボランティアとして鑑賞をサポートする側にいるが逆の立場を経験して聴くことの大切さを再認識した。

「考えてまとめて発言するのではなく心にうかんだらすぐに言ってほしい」とKさん。直感的に感じ取ったもの、かすかな心の動き、それらを率直に表現した言葉がKさんには何よりも作品のイメージを喚起する力になるのだろう。それは私たちにとっても同じで「聴く」、「観る」と鑑賞する手段は違っていてもいかに感性を開放できるかが、作品に向き合う出発点でありそれが全てと言っても良いかもしれない。そうなると必然的に知識といったものは必要とされず、実際今回ほど私の頭の中にある諸々の知識が邪魔だと思ったことはなかった。

観ることに伝えるということが加わり、更に7人の伝えたいという思いが交錯し、熱い鑑賞になったと思う。一枚の絵を通して深いコミュニケーションがなされた時、人はとても豊かな気持ちになるのだと感じた。鑑賞の仕方に決まりはないが、私にはとても心に残る貴重な体験だった。

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ボランティア羽鳥さんの文章は以上です。 鑑賞会の前にはやや緊張していたボランティアさん達が 終了後に楽しそうに「(視覚障害の人と見るのは)思ったより難しくないかも」と おっしゃっていたことが何だか嬉しかったです。(林)

 

主催:群馬県立近代美術館

photo:中島佑輔