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イベント報告レポート:第二回アーカイブを読む会 アーカイブの「穴」を読む

視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップでは、目の見えない人、見えにくい人が対象となる全国各地の美術鑑賞の機会を調べ、この10年間の事例をアーカイブとして公開を始めました。
そのアーカイブを、参加者のみなさんと一緒に眺め、語り合う、第二回アーカイブを読む会を開催しました。

第二回 アーカイブの「穴」を読む会

事例リストの紹介と、そこに「ない」ものの紹介

第一回のイベントと同様に、手元資料として、2016年から2025年の10年間に全国の美術館やギャラリー、芸術祭等で行われた、視覚障害者を参加対象者としている鑑賞の機会をまとめた事例リストをお配りしました。

前回は4つの形式に分類していた事例を、今回は、以下の5つの形式に分類して紹介しました。

・プログラム形式(ワークショップ、ツアーなどの少人数で作品を鑑賞、制作したりお話しをするもの)
・オープンデー形式(特別鑑賞日などの、障害のある人が気兼ねなく来館できる用意のある日、もしくは一定の期間・時間帯)
・展示形式(触れる展示や視覚障害者向けの音声ガイド、映像展示など)
・トーク・講演会形式(トークセッション、座談会、講演会、シンポジウムなど)
・鑑賞サポート形式(スタッフが鑑賞に付き添う、デバイスや設備の貸し出しなど)

そして、この事例リストにはないものとして、以下の4つをお話ししました。

1.曖昧な事例
・言葉を使った鑑賞プログラムが各地で行われているが、その対象者に視覚障害者の存在が意識されているかどうかが、告知情報では明示されておらず曖昧なものも多くあった。
・触ることができる展示やプログラムで、視覚障害者の鑑賞が想定されているのかわからないものもあった。
・講師等として実施者側に視覚障害者がいるが、対象者の視覚障害について言及がないものは、視覚障害者が参加しても差支えはないのかもしれないが、実施者側の意図が反映されているのかもしれない。

2.変化している事例
視覚障害者/障害者とのやりとりがきっかけで始まった事例の中に、年月が経つにつれて、対象者から視覚障害者が外れる変遷をたどったものもあるだろう。

3.常態化している事例
はじめは、イベントを開催したり、期間限定の対応だったりしたものが、当事者との関係性が築かれていくことで、イベント等を開催しなくても常に対応できる状態になった館も存在する。そのような対応についてはリストの記載ルール上載らなくなっている。
(連絡を受ければ対応する旨が、サイトに明記されている美術館も存在するが、各年度のリストには載せていない)

4.まだない事例
今はまだ実現されていない、未来の事例はここにはない。

10年間で、およそ490件の事例が現段階で集まっています。事例を集めたことで、その中には様々なものが混在することや、変化の様子、1回限りで継続されなかった事例の存在も見えてきました。

グループで語り合う

アーカイブの「穴」=まだない事例について考えることを軸に、事例リストを眺めながら、2つのグループに分かれて語り合いました。

グループで出た話題を紹介します。

●まだない、少ないと感じるもの

・特別鑑賞会やイベントがあるから行く、という感じで、鑑賞したい展示があるから行きたい、と思っても、鑑賞機会がない場合も多いのでは。

・障害当事者の子ども向けのプログラムが少なく感じる。これからの美術館を考えるときに子どもにどう伝えるかは重要だと思う。

・対象となる展覧会に偏りがある。鬼滅の刃の原画展が見たいという人もいるだろうが、そのようなタイプの展覧会では事例が少ない。

・大きな美術館の事例が多い。小さなギャラリーにも行きたい気持ちがあるが事例は少ない。

・これまで美術館に関心がなかった視覚障害者に向けた、入門編のようなプログラムがもっとあってもよいのでは。

・年間で、どの場所も開催していない空白の期間がないだろうか。美術館に行きたいと思った時に、調べてみたらどこにも取組が見つからなかったら残念に思うだろう。

・一緒に話す人が変わると、みえるものが変わってくることが、言葉を介した美術鑑賞の面白さの一つとしてある。一方で、特別鑑賞会は展覧会期間中1回しかない。何度も同じ展示を見る楽しみ方が気軽にできる状況ではない。

・鑑賞後に誰かと話したり、何かを作ったりして、アウトプットしたいと感じる。視覚障害者を対象とした、鑑賞と制作がセットのプログラムがほしい。

・視覚障害者が1人で白杖を持ってふらっと美術館に行けるようになることが一番の理想。

●疑問

・美術館の存在意義とは何だろう?

・鑑賞機会を設ける展覧会は、誰がどういう理由で選んでいるのだろう?

・これまで美術館に来たことのない視覚障害者の中に、実は美術館が合う人もいるだろう。そういう人に美術館に来てもらうにはどうしたらよいのだろう?

・著名な講師陣の名前が繰り返し出てくるが、後進が育っているのだろうか?育成は進んでいるのだろうか?

・継続できている事例と継続しなかった事例が見えてきた。続いてるところはどこか、なぜ続いているのか?どのように広報しているのか?一方で、続けれらなかった理由は何だったのか?

●リストについて

・個人的な活動として場作りをしている視覚障害者を知っている。例えば特定の写真家が好きで企画を作るなどしている。そのような個人的な活動もこのリストに入るといいと思う。

・美術館の楽しみ方として、建物や空間自体を楽しんでる人は多いと思う。そういう事例もあったら良い。

・アーカイブにあるデータを事前に集めることができ、それらを管理するリソースが確保できれば、情報発信のポータルサイトができるだろう。

●実体験、感じたことなど

・(実施者の立場より)視覚障害者や聴覚障害者、その他色々な属性を持つ人々との取組を進めてきた中で、一番初めに対象者を「どなたでも」と書いた時は、相当な覚悟をした。どんな障害や属性が混在しても対応するぞ、と決意して書いた。

・以前「どなたでも参加できる」というオープンデー形式のものにベビーカーで子どもを連れて参加したが、混雑して動きづらく、じっくり作品を鑑賞できる環境ではないこともあった。誰でも参加できるプログラムは、特別視されない、気軽に行ける、というメリットもあるが異なる属性の人が混在することで、ニーズがわかりにくくなる、というデメリットもある。

・(美術館の設計に関わる方より)既存の建物ではハードを整えることが必要だが、盲導犬を連れてくることや、お子さん連れでの鑑賞にまつわるいろんな行動を想定して、新しく作られる美術館では通路を広く確保したり、初めからアクセシビリティが確保された状態を作ることが最重要だと認識した。

・アーカイブには明記されないが、開催地の建築的視点での環境に想像が及んだ。

・美術を深く楽しんでいる視覚障害者の中には、自分からどんどん美術館へアクセスしていったり、周りに美術の楽しさを広めていくパイオニア的存在がいる。

・著名な講師陣だけでなく、名前を出さないで活動してる障害当事者もたくさんいるのではないか。その存在は分かりづらい。

・今、それぞれのマイノリティでコミュニティが閉じた環境になっている。別の種類の障害がある人との交流もほとんどない。美術が媒介となって、様々な人が出会う場となることができるはずだ。

・美術館・美術作品には、多様な人を受け入れる素地が本当はあると思う。美術館で多様な人が一緒に楽しむ状況が広がることを願う。そして、そこから社会全体が変わっていくことを願いたい。

今後について

イベントで配布した資料に、細かな情報が加わった「全国の美術館の活動」が、このサイトの<データ>のページに掲載されています。現在は、まだ集めきれていない事例が各地に存在しています。引き続き、事例を集めながら、随時<データ>のページを更新していく予定です。
バラバラに散らばっている事例の一つ一つをアーカイブにまとめることで、見えてくることは、たくさんあると思います。新たに生まれる問いもたくさんあると思います。そんな話題や問いを、さまざまな立場にいる皆さんと話す場を、定期的に作りたいと思っています。

【イベント概要】
2025年12月21日(日)14:00~16:30
生活工房 4F ワークショップルームB
参加者:18名(内、視覚障害者3名)主催:視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ
助成:公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京[芸術文化による社会支援助成]
(※ 助成対象事業《「目の見える人と見えない人の芸術鑑賞の場における経験と関わり」のアーカイブ作成と公開》の一部として実施)

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