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イベント報告レポート:第一回アーカイブを読む会 アーカイブの「点と線」を読む

視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップでは、目の見えない人、見えにくい人が対象となる全国各地の美術鑑賞の機会を調べ、この10年間の事例をアーカイブとして公開する準備をしています。 その製作途中のアーカイブを、参加者のみなさんと一緒に眺め、語り合うイベントを開催しました。

第一回 アーカイブの「点と線」を読む会

事例リストと社会の動きの紹介

イベントの手元資料として、2016年から2025年の10年間に全国の美術館やギャラリー、芸術祭等で行われた、視覚障害者を参加対象者としている鑑賞の機会をまとめた事例リストをお配りしました。

事例リストは、年度ごとにまとめてあり、都道府県名、主催者、プログラム名、鑑賞対象/展覧会名、対象/言及している部分、共催/企画協力など、の6つの項目について記載しました。

「対象/言及している部分」の項目には、主催者や関連する組織等の資料(告知情報、開催報告、年報等)に書かれている、対象者や、視覚障害者(もしくは障害者)への言及部分を引用し記載しました。

イベントでは、まず、2016年から2025年までの社会の動きとして、法律や社会的出来事、美術館の活動に関わるトピックを紹介しました。

<社会の動き>

2016年施行
障害者差別解消法:国・地方公共団体において「合理的配慮」が義務化

2018年施行
障害者による文化芸術活動の推進に関する法律:これにより厚労省と文化庁が「障害者による文化芸術活動の推進に関する基本的な計画」を策定

2019年末~ 新型コロナウイルス

2020年予定(2021年実施) 東京オリンピック・パラリンピック

2022年
国際博物館会議:ミュージアムの定義に「誰もが利用でき、包摂的であって、多様性と持続可能性を育む」と明記される

2023年施行
改正博物館法:「高齢者、障害者、妊娠中の者、日本語を理解できない者その他、博物館の利用に困難を有する者が博物館を円滑に利用する」ことが博物館の登録条件に関する内容として明記される

2024年施行
改正障害者差別解消法:「合理的配慮」の完全義務化

このような社会の大きな流れがある中で、事例リストからは、視覚障害者の美術鑑賞の機会は増えつつある様子が伺えましたが、事例の多い地域に偏りがあることも見えてきました。

グループで語り合う

事例リストに書かれた一つ一つの事例(=点)を眺めながら、どんな分類・カテゴリー分け(=線を引く)ができるか。そうすることで見えてくるものは何か、を切り口に、2つのグループに分かれて様々に語り合いました。

グループで出た話題を紹介します。

・「10年」に期間を区切ったことで、その前の10年も気になってきた。10年毎に線を引くことで、大きな歴史の動きを考えられそうだ。

・参加対象に、「障害のある方」や、「見えない人と見えにくい人」のような書き方がされているものは、障害者手帳を持っているかどうかで線引きするのではないところが良い。中途の視覚障害者は多いので、まだ手帳を持たない見えにくい人も自分で希望して行くことができる。

・参加対象に注目すると、それぞれの主催者のユーザーに対する姿勢が見えてくる。「障害者」や「どなたでも」という大きな括りなのか、障害の種別を細かく区切っているのか。障害者と健常者が一緒に参加できる場なのかそうでないのか、等。

・対象の記載方法について。障害有無やそれ以外の属性に関わらずいろんな人に参加してほしいイベントに対して「どなたでも」と記載すると、障害者が参加して良いように見えなくなってしまう。一方で、障害者と書くと、障害のない人が申し込んでくれない状況になりがちで悩ましく思う。

・ワークショップやツアーなどの比較的少ない人数で行うプログラムの形式で行われた事例を細かくカテゴリー分けしていくと、たくさんのことがわかってきそうな気がする。例えば、鑑賞作品は?鑑賞の時間は?参加者の人数構成は?など

・話をしながら鑑賞するスタイルの事例で、タイトルの表現方法が様々ある。例えば、「おしゃべり」、「言葉で見る」、「対話型鑑賞」など。それぞれに、名付けた主催者の考えが込められている。実際のやり方も異なる。

・古い事例には、タイトルに「福祉」と付くものが見られる。主催者側が、対象者をそのように考えていたのだと感じた。

・「点」というのは「人」のことだと感じた。点が多い地域や美術館には、実践を続けている人がいる。

・(特別支援学校での勤務経験がある方から)障害者と美術の文脈では、作品の出品を外から求められることばかりだった。鑑賞の機会こそ増やしていきたい。

・(晴眼者から)障害のある人、ない人が混ざったイベントで、”障害のある人を消費している”ような感覚を覚えたことがある。障害者としてはどう感じているか?
→(視覚障害者から)どうしてもそんな関係になることはある。ボランティアしたい、支援したいと言って来る人の、「してあげたい気持ち」に付き合うことになり、どっちがボランティアかわからないような状況になることもある。
→(実施者の立場から)場をつくる側からすれば、誰かが誰かを”消費している”と感じるような構造にしてしまってはいけない。今後、色々な場所で取り組みが進むと思うが、開催数が増えていくにあたり、そのようなシーンが増えてしまわないか心配でもある。

・運営の主体となる組織は、美術館かNPOなどの団体なのか。その中に障害当事者がいるのかどうかが気になった。

今後について・・・

現在、事例リストをまとめ、このアーカイブサイトをリニューアルして公開する準備をしています。公開まで、もう少しだけお待ちください。

また、第二回のアーカイブを読む会では、アーカイブの「穴」を読むと題して、事例リストを見ながら、まだ実現していないことについて、グループで語り合う機会をつくります。(※申込は締め切りました)開催後には報告レポートを掲載しますので、こちらも合わせてお待ちください。



【イベント概要】
2025年11月22日(土)14:00~16:30
生活工房 4F ワークショップルームB
参加者:13名(内、視覚障害者2名)主催:視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ
助成:公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京[芸術文化による社会支援助成]
(※ 助成対象事業《「目の見える人と見えない人の芸術鑑賞の場における経験と関わり」のアーカイブ作成と公開》の一部として実施)

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